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No.238 2025.10.29

元女性国税専門官からのひとこと~西武グループ研究④~

西武王国の隆盛

堤義明氏は、1971年の父親の七回忌に、清二氏と鉄道、観光、不動産部門と流通、製造部門の事業分離を行い、父親の死後10年たった75年ころから事業展開を本格化します。義明氏は父から譲り受けたグループ支配権と、時価12兆円(当時)といわれた全国に広がる膨大な土地をバックに、ホテル、スキー場、ゴルフ場といった、大規模リゾート開発に手腕を発揮していきました。(*1)
1978年にはコクド(当時は国土計画)がプロ野球西武ライオンズのオーナーになるなど、バブル景気とも重なり「西武王国」全盛期が続きました。ニセコにおいては、1982年にコクドがニセコ町と第三セクター「ニセコ開発」を設立。「ニセコ東山スキー場」と「ニセコ東山プリンスホテル」を開業しました。1994年には「ニセコ東山プリンスホテル新館」も開業しています。1998年の長野冬季五輪誘致などにも多大なる貢献があったとされています。1990年代前半はコクドの堤義明会長は、米国の経済誌「フォーブス」に「世界一の大富豪」として取り上げられました。
堤清二氏のセゾングループは1980年代に文化事業・流行発信の先端を担ったのですが、無理な拡大戦略がたたりバブル崩壊後に経営難に陥り、1990年代後半に事実上解体されました。
一方の義明氏の西武グループもバブル崩壊と不良債権問題などで多額の有利子負債を抱えるようになりました。ニセコにおいても他のリゾート同様、スキー場訪問客も宿泊客も減少していきました。1999年にはニセコ開発が負債総額25億円で清算され、親会社の西武不動産が事業継承することになりました。
地価が右肩上がりの時代に、土地の含み益の与信で金融機関から借りまくっていた有利子負債が、バブル崩壊で逆回転して一気に負債が資産価値を上回る債務超過状態へと陥るのは、もう少し先の話です。

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王国崩壊のきっかけは証券取引法違反

2003年10月から、株券のペーパーレス化が施行され、上場企業には向こう5年以内に株券を廃止し、ペーパーレス化が義務付けられることになりました。そうなると問題となるのが、他者を借名していた大量の名義株です。この時点で、国土計画(コクド)は西武鉄道株を64.83%保有していたものが、実際には名義株式を除くと43.16%と有価証券報告書に報告していました。
東証では株式の流動性確保の観点から、上位10株主の合計持株比率が80%以下(現在は75%以下)でなければならないルールがありました。コクドは上位10株主80%以下にするためには超過分8.57%(約4,000万株)を売却しなければなりませんでした。なぜなら、この基準を満たせずに所定の期間が経過すると、上場廃止になってしまうからです。西武鉄道の場合、上位10株主の合計持株比率が88%を超え、上場廃止基準に抵触していました。そこで、コクドが保有する西武鉄道の株式の一部について、他人名義に偽り、上位10株主の合計持株比率を74%にまで引き下げ、上場廃止基準に抵触しないように長年有価証券報告書に虚偽の記載を続けていたのです。
2004年2月、コクドは西武鉄道株を64.83%保有していたものが、実際には名義株式を除くと43.16%と有価証券報告書に報告していました。これは後に、有価証券虚偽記載とされます。
一方で、名義株との辻褄をあわせるため、コクドは2004年10月までに5,000万株を取引先企業に売却します。そして2004年10月13日に関東財務局へ過去5年分の訂正報告書を提出したのです。上場廃止基準に抵触していることを隠し、上場廃止になれば株価が暴落することを知りながら株式を売り抜けた行為は、インサイダー取引とみなされました。 (*1)

堤義明氏の辞任と逮捕と堤家支配の解体

2005年3月3日、東京地検特捜部によって、証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載およびインサイダー取引)の容疑で逮捕され、堤義明氏はオーナー経営者としての グループ全役職を辞任します。2005年10月、東京地裁において、懲役2年6ヶ月・罰金500万円(執行猶予4年)の有罪判決が下され、控訴せずに確定しました。
堤義明会長は失脚し、西武鉄道も2004年12月に上場廃止処分となり、当時1兆4000億円もの有利子負債を抱えた西武グループは存亡の危機を迎えることになります。
2005年5月24日、ファミリー企業からの脱却とリストラのため、メインバンクであるみずほフィナンシャルグループから後藤高志氏が招かれ、2006年2月コクドの解体とプリンスホテルへの吸収合併、新たな中核会社として西武ホールディングスの設立、サーベラスの資本参加(増資引き受けで30%の筆頭株主に)、不採算部門の売却などリストラが断行されました。

コクドの名義株も問題に

しかしこのリストラは、名義株偽装されたコクドの株主構成を前提に断行されたものだとして、2005年に清二氏、猶二氏ら他の親族が、自分たちの相続する権利を主張して総会開催差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てました。(*2) この地裁判決では、康次郎氏の死亡時に第三者名義だった当時の国土開発興業株約126万株のうち少なくとも100万株については名義偽装があり、偽装していない株も含め康次郎は約123万株(発行済み株式の約82%)を保有していたとの判決を下しました。当時の経営陣による「コクド株に名義偽装はなく(西武ホールディングス設立など)一連のグループ再編には正当性がある」と裁判長は差し止め自体は却下したものの、株の名義偽装については認めたものでした。
右の表は、2004年6月に1,000株を1株に併合した後のコクドの株主構成です。(*2)

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裁判では猶二氏ら親族が「無効」と主張している康次郎の遺産相続について、コクド株の大半が義明氏の所有であることが認められたのは、「取得から20年以上が経過していることによる時効」が理由でした。

東京国税局の税務調査

新聞報道等によると、2006年12月、東京国税局の税務調査で、コクドおよび西武グループ6社が堤義明氏に2004年までの4年間で約7億円のみなし役員給与を認定しました。この内訳には、康次郎氏の墓地管理費、愛人宅の家賃やお手当なども含まれていました。この義明氏の給与と認定された7億円に対する源泉所得税約2億5,000万円を追徴課税しました。(*4)また、豊島園の社長だった堤康弘氏の社宅等をみなし給与と認定して追徴課税しました。(*3)

その後の西武ホールディングス

2014年4月23日、西武ホールディングスが 東京証券取引所・第一部に再上場しました。上場廃止から約9年半ぶりの再上場となりました。2015年5月、当初の筆頭株主だった米投資会社サーベラス社が、西武ホールディングス保有株の一部(約10%)を市場などで売却し、初期投資額1,000億円を全額回収しました。
2016年2月10日、西武ホールディングスは、株主からの損害賠償請求に関して、堤義明氏ら旧経営陣に求めていた求償債権225億円を 全額回収しました。堤氏側は一般株主が被った損害の賠償のため、コクドを引き継いだ資産管理会社「NWコーポレーション」による株式を含め、西武グループの全株式を売却し、これにより西武グループと堤一族との支配関係は完全に解消され、堤一族が築き上げてきた巨大西武グループのすべてを失ってしまったのです。(*5)


(参考文献)
*1 共同通信社経済部「西武王国崩壊」東洋経済新報社 2005年
*2 広岡友紀「西武堤一族支配の崩壊」さくら舎 2015年
*3 立石勝規「脱税の決算書」徳間書店 2005年
*4 立石勝規「ダイヤモンド腐食の連鎖」 講談社 2007年
*5 大下英治「西武王国の興亡」 さくら舎 2022年 

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