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No.239 2025.11.12

元女性国税専門官からのひとこと~アメリカの富豪の節税戦略①

アメリカの富豪は所得税をほとんど払っていない?

2021年6月10日、米ニュースサイトのプロパブリカ(ProPublica)は、アメリカの富裕層上位25人の所得税の情報をアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)から入手し、そのデータやフォーブスが発表する世界長者番付のデータなどを基に分析した結果、アメリカの富豪らが所得税をほとんど支払っていないという記事を掲載しました。(*1) この記事によると、なかには所得税ゼロを達成した富豪もいるとのこと。分析対象には情報サービス企業ブルームバーグの創業者であるマイケル・ブルームバーグ氏、持株会社アイカーン・エンタープライズの創業者であるカール・アイカーン氏、天才投資家として知られるジョージ・ソロス氏などが含まれます。
この記事では、所得税の支払いを回避する手段を持つ超富裕層の経済的な現実を把握するため、「2014年~2018年の5年間に最も裕福な25人のアメリカの超富裕層が支払った所得税」と、「同期間に世界長者番付が発表した超富裕層の資産増加額」を比較しています。
この調査の結果、アメリカで最も裕福な25人の総資産額は2014年~2018年に4010億ドル(1ドル148円換算で約59兆円)増加し、これらの人々が支払った所得税の総額は136億ドル(約2兆円)に上ることがわかりました。この所得税額は巨額かもしれませんが、割合にすると増加した資産額のわずか3.4%となります。これは、アメリカの所得税における記事作成時点の最高税率が37%であることを考えれば、非常に小さな割合と言えます。
一方、アメリカに住む40代前半の典型的な賃金労働者では、同期間に世帯の税引き後純資産が平均6万5000ドル(約962万円)増加しました。ところが、賃金労働者が得る収入の大部分は給与所得であるために14%ほどの所得税が課されることとなり、同期間に支払った所得税の総額はおよそ6万2000ドル(約918万円)になるとのこと。つまり、超富裕層が富の増加に対して非常に小さな割合の所得税しか支払っていないにもかかわらず、一般的なアメリカ人は富の増加とほぼ同額の所得税を支払っているとプロパブリカは指摘しています。

どうやって節税しているのか

プロパブリカの記事は、超富裕層が支払う所得税額を圧縮する上で重要なのが、「所得税が課されるのは実現された利益のみであり、所有しているだけの株・債券・建物の資産額増加には所得税が課されない」という制度だと指摘しています。これはつまり、会社勤めをして得た給与所得や株の配当、株や不動産などの資産を売却して得た収入には所得税が課されるものの、いくら保有している株の価値が上昇したとしても、それ自体には所得税が課されないことを指しています。
アメリカ政府は収入に対して課税するため、一般的な世帯の多くは給与所得全体から10%台の所得税を支払い、残ったお金を生活費や娯楽費、そして貯金あるいは株式投資に回して資産を形成します。一方で超富裕層には、CEOとしての報酬や株式を売却して得た利益には所得税が課されるものの、所有している株の価値が上昇しても所得税が課されないため、株の上昇分だけ資産が増加するとされています。
この仕組みを特にうまく使っているのが、著名投資家のウォーレン・バフェット氏です。バフェット氏がCEOを務める投資持株会社のバークサー・ハサウェイは、「配当金を支払うくらいなら、その資金で自社株買いや再投資を行った方が株価が上がるため、結果として株主のメリットが大きい」という方針から、株主に対して配当金を支払いません。そのため、バフェット氏は保有するバークサー・ハサウェイ株からの配当も得ていないため、さらに所得税の支払いが少なく済んでいるとのこと。
バフェット氏のような超富裕層が実際に所得税の節税で利用しているのは、「投資利息控除」や「不動産ローン利息控除」を基盤にした節税スキームや「寄付金控除」の所得税控除があります。

超富裕層の所得税節税戦略

①投資利息控除(Investment Interest Deduction)*2
富裕層は、豊富な保有株式や資産を担保にローンを組み、その借入金で新たな投資(株・債券・不動産)を行います。利息支払いは「投資利息控除」で課税所得から差し引けます。日本の税制で認められている配当、利子などの投資運用収入に対する支払利息は限定的ですが、アメリカの税制では、それより幅広く支払利息が控除できるのです。
もし株を売却して現金化すると キャピタルゲイン課税(最大23.8%) がかかりますが、株を担保に借入するのはキャピタルゲイン税はかかりませんし、売却しない限り、株価が上がって生じた含み益にも課税されません。さらに保有株式を担保に借入して生活費や追加投資に使えますし、支払う利息は 投資所得(配当・利息収入・キャピタルゲイン)を限度に控除できます。これにより「課税を先延ばし」しつつ「利息を経費化」するメリットを受けられるのです。

②不動産ローン利息控除(Real Estate Mortgage Interest Deduction)*3
富裕層は投資用不動産(賃貸ビル・商業施設・リゾートなど)を保有します。購入資金を借入で調達し、賃貸収入から利息を控除して、減価償却(depreciation)と利息控除を合わせると、帳簿上は赤字(tax loss)になることがあります。日本でも不動産ローンの利息と減価償却費を経費とし、他の所得と損益通算する節税法は知られていますが、不動産所得が赤字の場合、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額は損益通算の対象となりません。
結果として株式や不動産は売却せずに保有し続けるため、キャピタルゲイン課税は先送りになり、さらに将来的には死亡時には「ステップアップ課税(Step-up in Basis)」により、相続人は相続した含み益をほぼ無課税で引き継げ、 結果として「資産は増え続けるのに、キャッシュフローにはほとんど課税されない」状態を作れるのです。*4  

③寄付金控除
「寄付白書2021」(日本ファンドレイジング協会)によるとアメリカの個人寄付額は34兆5948億円にのぼり、日本の約30倍です。名目GDP比で見ても人口一人当たりの寄付額で見てもケタ違いの規模となっています。アメリカの寄付額が多い理由には、宗教的な背景もあります。キリスト教の精神の一つに「富める人は貧しい人に分け与えるべき」というものがあり、ユダヤ教でも戒律の中で慈悲を挙げています。このような根底には神の教えに沿って寄付をするという部分があります。
しかし上記のような社会的・文化的な要因以外にも、税制的に寄付を促す税制優遇措置と受け皿となる寄付控除の対象となる団体数が桁違いに多いことも理由とされています。アメリカでは個人の場合、公共の慈善団体への寄付金に対する所得控除は該当課税年度の調整総所得(adjusted gross income)の50%まで認められる上、寄付金控除が認められる団体の数は、日本における特定公益増進法人の数は21,168 (2010年4月1日現在)、認定NPO 法人は613(2015年3月6日現在)であることに比べて、 アメリカでは寄付金控除の対象となる団体数は130万を超えるとされています。*5

(参考までに)日本でもある「1億円の壁」

「1億円の壁」とは、日本の税制において、所得が年間で1億円を超えると所得税の実効税率が低下する傾向にあることから生まれた言葉です。 令和4年10月に財務省が発表した「申告納税者の所得税負担率」によると、以下のように所得が1億円を超えるあたりで所得税負担率が低下しています。これは累進課税制度の仕組みと、金融所得課税の分離課税という2つの要素が複雑に絡み合って生じるものです。所得1億円を超える富裕層では、給与所得よりも株式譲渡益や配当所得などの金融所得が多くなる傾向にあります。金融所得は他の所得と異なり税率が一律約20%で固定されているため、所得全体に対する税負担率が20%近くまで下がるのです。

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令和7年分所得税から、「1億円の壁」への対応策が開始されます。富裕層ほど実質的な所得税負担率が低くなる現象の是正のために、令和5年の税制改正で創設され、令和7年分の所得税から開始されます。対象は、申告不要制度や分離課税制度の対象となる所得を多く有する納税者(おおむね平均的な水準として30億円超の高額所得者)を想定しています。(財務省資料より)

*1 The Secret IRS Files: Trove of Never-Before-Seen Records Reveal How the Wealthiest Avoid Income Tax — ProPublica ProPublica has obtained a vast cache of IRS information showing how billionaires like Jeff Bezos, Elon Musk and Warren Buffett pay little in income tax compared to their massive wealth — sometimes, even nothing.

*2 IRC §163(d)(1): "In the case of a taxpayer other than a corporation, the amount allowed as a deduction for investment interest for any taxable year shall not exceed the net investment income of the taxpayer for the taxable year." 投資利息(investment interest)の控除を認めるが、控除額は「当該年の投資所得 (net investment income)」を限度とする。

*3  IRC §163(h)(3) 「qualified residence interest」の定義や制限額を規定。
住宅取得債務(acquisition indebtedness)や住宅資本債務(home equity indebtedness)の利息が対象。

*4  Internal Revenue Code §1014 I (a)(1) Except as otherwise provided in this section, the basis of property in the hands of a person acquiring the property from a decedent... shall... be the fair market value of the property at the date of the decedent's death.
ステップアップ課税(Step-up in Basis)被相続人から取得した財産の基準価額)を定めた規定。
§1014(a)(1) において、原則として相続により取得した資産の取得価格は、被相続人の死亡時のフェアマーケットバリュー(FMV:時価)とする。

*5 「寄付白書2021」(日本ファンドレイジング協会)

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